当たり前の景色を、大切な景色に

今、私は農業関係の部署に所属しているが、業務の一つに南箕輪村のブランドコシヒカリ「風の村米だより」による農業振興を目的にした稲作体験(その名もまっくん田んぼ体験隊。なんてストレートな名前か。)の運営事務局がある。

数ある農業体験の多くは、田植えや稲刈りの当日のみを楽しんでもらうことに留まるが、「農業や農村の魅力はむしろ体験以外の時間にあるんじゃなかろうか」と考えた農業体験スタッフは、
今年から、体験当日の準備・運営だけでなく、その過程まで発信している。(詳しくは、公式サイトのブログ記事をご覧いただきたい。南箕輪村の魅力とウィットとエネルギーに富んだ記事があるはずだ。)

その取材では、苗づくりや田んぼづくりといった農作業の下準備や、販促イベントの様子を取り上げている。活動の甲斐があってか、都市部からの参加者増や都市部スーパーでの販売が決定するなど、少しずつではあるが、大きな流れを生みつつある(はずである)。
米は、多くの地域において基幹作物であり、色々な意味で差別化・ブランド化を図ることが難しいものだが、焦らずに着実に進んでいけばいいなと思っている。

さて、近況報告はこれまでに、本題に入ろう。
私は南箕輪村で生まれて28年、地元に就職し、農業関係の部署に配属されて4年目になる。幼き頃より駆け巡ったこの村への魅力は誰よりも知っていると自負していたが、先述した農業体験パワーアップのための取材を通して、まだまだ、知らないことでいっぱいであった(自分で思っていたよりも8%くらいしか知らなかった)。

仕事を、農業を切り口とした南箕輪村の魅力を再認識したが、
中でも、特に強く実感したのが、田園風景や農業者の日々の営みの美しさである。

写真は、今までは“当たり前”の風景だったが、仕事を通して、
この美しい風景が、農業者による日々の営みの積み重ねによって生まれた、“大切な”風景であること、
この、“当たり前”の美しい景色が、南箕輪村の魅力と文化そのものであることを実感した。

南箕輪村は、地方では珍しく、人口が増加する自治体であり、長野県においても人口増加数・率ともに一位を誇る村である。一方で、農業者は減少と高齢化が進むとともに、移住者の多くが非農家であり、南箕輪村にとって、農業は前ほど日常的なものではなくなっている。
もちろん、それ自体が悪いわけではない。住民や産業の多様化は柔軟性のある集落を生み出すからだ。
ただ一つ、心配なことは、「村の風景は美しい」と感じる人全員が、必ずしもその背景を知っているとは限らない点である。(その最たる例がかつての私だが…)

「地方の農業振興」は、都市一極集中化の進む今日に求められるテーマの一つであり、全国で直売所やアンテナショップ、地域ブランド商品の乱立していることからも明らかだ。
しかし、「農業振興(農業を守る)」とは、必ずしも農産物売上を伸ばしたり、農業者を増やし・守ることに留まらないものだと思う。
むしろこれからは、農家だけでなく、非農家とも、地域農業の魅力や役割の共有を並行して進めていかなければならない。

そして、私のライフワークである写真も、家族や友人のポートレートスナップばかりではなく、たまには外に出て、村の田園風景を残していければと思う。

当たり前の風景が、大切な風景となる、そんな写真を。

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